在宅医療
読売新聞より
(上)ITで情報共有 診療の質アップ
看護師らとの連携スムーズ
在宅医療を支援する拠点として、在宅療養支援診療所が2006年4月に創設されて、間もなく3年を迎える。24時間365日の充実した医療を提供する支援診療所もあれば、訪問診療さえ行わない施設もあり、ばらつきは大きい。訪問看護ステーション、ケアマネジャーなどと連携し、患者の生活を支える先進事例を報告する。(阿部文彦)
メーリングリスト
鹿児島市にある在宅医療専門の「ナカノ在宅医療クリニック」(非常勤を含め医師5人)の中野一司院長が実践するのが、「IT(情報技術)を活用したネットワーク型の在宅医療」だ。
クリニックに隣接する「ナカノ訪問看護ステーション」で早朝に開かれるスタッフミーティング後、中野院長は訪問看護師とともに、ノートパソコンを抱えて、車に乗り込む。1日平均15軒、住宅や宅老所を回る。
「正月はゆっくりできましたか。足の状態はどうかな」。中野院長は、自宅で療養する患者に声をかけ、病状などを聞き取りながら、ノートパソコンを広げた。訪問看護師が読み上げる体温、血圧、脈拍などをパソコンに打ち込み、点滴、検査など必要な処置を指示する。
業務を効率化する工夫も凝らされている。中野院長は打ち込んだ診療情報を、メーリングリストにあるクリニックとステーションの医師や看護師らに送信するだけ。電子カルテに書き加えるのは情報処理担当の事務員の仕事だ。このため、医師は、診察に集中することができる。
別の患者宅を訪れている訪問看護師から、携帯電話で患者の処置についての指示を求められることもある。そんな場合は、パソコンで、過去の検査データ、薬剤の処方状況などを確認し、迅速に指示する。「情報をリアルタイムで共有できるので、医師と看護師、他の医療機関との連携がスムーズになり、質の高い在宅医療が可能になる」と中野院長。メーリングリスト内の情報を活用、医師や看護師が対等に過去の事例を検討し、学習しあうこともできる。
さらに、情報共有化で欠かせないのが朝のミーティングだ。医師、訪問看護師、事務員など約20人が自分のパソコンを前に、その日に訪問診療や訪問看護を行う患者の情報を交換しあい、結果をメーリングリストを使って送信する。介護する家族の状況、病状の注意点、ケアプランの詳細など、飛び交う情報は医療・介護にまたがる。
ステーションの泊(とまり)奈津美所長は「夜間や休日などに、自分の受け持ち以外の患者を訪問看護することもあり、情報ツールとして、メーリングリストは欠かせない。患者の状況などによっては、直接会って話をするなど使い分けが大事」と話す。
情報漏れ懸念
しかし、ITを多職種の連携に活用している診療所はまだ数が限られる。日本看護協会が行った調査でも、「メーリングリストなどのIT導入によるコミュニケーションを図っているか」との問いに、「図っている」と答えたのは2割弱にとどまった。
ハードルの一つが、安全性だ。インターネットは、情報漏れの危険性が常につきまとうからだ。メーリングリストの場合、限られたメンバーにのみ、メールが配信される。しかし、原理的には、悪意を持つ第三者が情報を盗むのは可能で、インターネットの活用には慎重論も根強い。
さらに、コストの問題もある。連携先となる訪問看護ステーションの多くは経営が厳しく、パソコンを1人1台配備するのは難しい。情報共有化による経営的なメリットが見えにくいのも、IT化が進まない一因だ。
もちろん、在宅支援診療所にとっても、連携する訪問看護ステーションにとっても、IT化の恩恵は大きい。「診療所の医師が1人で24時間、365日対応するのは難しい。今後、在宅医療においても、ITなどを活用して多職種と連携し、個人ではなく、組織的に患者の生活を支えるシステムが必要。安全で安価な情報通信網が整備されれば、医療連携や在宅医療が広がる可能性がある」と、鹿児島大病院医療情報部の村永文学(ふみのり)助教は指摘している。
(つづく)