認知症施設にスプリンクラー
読売新聞より
消防法で義務化へ / 高額な工事費ネック
4月施行の改正消防法施行令で、認知症高齢者グループホームなどにスプリンクラーの設置が義務づけられる。設置に3年間の猶予期間があり、費用も高額になるため、整備は進んでいない。自力で避難しづらい人が暮らす場所だけに、定期的な避難訓練の実施など、設備以外の対策も欠かせない。(長谷川敏子)
2006年1月に長崎県大村市の認知症グループホームで7人の高齢者が逃げ遅れて亡くなった火災をきっかけに、消防法施行令が07年6月に改正された。乳児院、知的障害児入所施設なども対象で、消火器、自動火災報知設備、消防へつながる火災通報装置の設置を、施設の面積にかかわらず義務づけた。スプリンクラー設置を義務づける対象も、1000平方メートル以上の大型施設から275平方メートル以上の施設へ対象を広げた。
消防庁予防課は認知症グループホームで、「建物の構造や入所者数などで違いはあるが、訓練が行われていないと、全員の避難に20分以上かかる場合も珍しくない」とする。入所者の逃げ遅れの恐れがある施設だけに、自動的に消火を行うスプリンクラーを設ける効果は大きい。
木造平屋(約635平方メートル)に高齢者18人が暮らすグループホーム「清泉」(大阪府堺市)は昨年12月、スプリンクラーを設置した。車いすの入居者が2人おり、職員は昼間の7〜9人が夜は2人になる。管理者の辻野やす子さんは「夜間、全員を避難させられるか不安があった。スプリンクラーは火災の拡大を抑え、避難時間も稼げるので、職員の不安が減りました」と話す。
施設内の居室や食堂などの天井に、火災の際、水を噴き出すスプリンクラーヘッドを72個つけ、天井裏の配管や貯水タンク(約3トン)設置を含め、約1700万円かかった。
安全確保に役立つ設備だが、高額な工事費が設置のネックとなっている。全国認知症グループホーム協会(東京)が昨年1月に行った調査では、全国の796事業所のうち、スプリンクラーや屋内消火栓を備えるのは約2割。スプリンクラーヘッドの国の規格が昨年末まで公布されず、工事を先延ばしにする事業者も多いという。
改正に合わせ、厚生労働省は新年度から、工事を行う認知症高齢者グループホームなどに、面積1平方メートル当たり9000円を補助することを決めた。「それでも設置は難しい」と嘆く事業者は多い。
木造2階建て延べ344平方メートルの「いこい おりおの館」(大阪市)は、業者の見積もりで工事費は約500万円。経営状態は厳しく、工事費から補助金を差し引いた200万円弱を賄えない。館長の吉田洋司さんは「利用料を上げるわけにもいかない」と頭を抱える。施設の構造上、天井を外して配管工事を行う必要があるが、その間入居者を移せる余分な部屋もないという。
関西学院大の室崎益輝教授(防災学)は「行政が公共施設の一部を貸し、入居者を移転させる方法もあるのではないか。事業者に責任を押しつけず、行政、防災業者を合わせた3者が負担を分け、社会的弱者の命を守ることを考えてほしい」と指摘している。
認知症高齢者グループホーム 認知症の高齢者が少人数で職員と共同生活を送る住居。個室で、5〜9人の一つの単位(ユニット)ごとに食堂など共有スペースがある。大規模施設に比べて家庭的な雰囲気で、生活歴などに応じた個別のケアが行いやすい。厚生労働省の介護給付費実態調査(2008年12月審査分)では、全国の9621か所で計約13万7000人が暮らしている。
避難訓練地域と連携も
スプリンクラーのような防火設備に加え、避難訓練など、日常的な対策も重要だ。
「火事だ、台所が火事だ!」。福島市のグループホーム「フクチャンち」の食堂。職員の大きな声が響くと、くつろいでいたお年寄りたちがあわてて立ち上がり、室内履きのまま屋外へと急いだ。
4年前から毎月15日に避難訓練を実施している。出火の時間帯や場所など、想定を毎回変え、2月は「午後2時に台所から出火した」と想定。入居者7人と勤務中の職員3人、近所の人3人が参加した。全員が避難するのにかかった時間は2分23秒。4年前の半分以下に短縮したという。
日ごろから様々な防火対策を進めており、訓練にも工夫を重ねている=別項=。特に近隣住民の協力を得るための工夫を重視しているという。
訓練に近隣住民を招き、終了後の反省会に加わってもらう。消防だけでなく、近隣の民家3軒へも異常を知らせる通報装備も設置。火災の際、屋外に避難した高齢者の見守りも近隣住民に頼んでいる。
施設では地域の祭りに積極的に参加し、会合場所としてホームの和室を住民に貸すなどして、日頃から交流を深めている。「一方的に助けてもらうのでなく、ホームや入居者を理解してもらい、地域の一員としての役割を担うことも大切」と所長の森重勝さん。
仙台市の「よもぎ埜(の)」も昨年7月の開設以来、毎月訓練を行っている。責任者の蓬田(よもぎだ)隆子さんは「ハンデを抱える認知症の人にこそ、訓練が必要。回数を重ねるうち、体が動くようになり、入居者同士の助け合いも見られるようになった」と話す。
合同訓練も行われている。横浜市は2月、グループホームなど高齢者福祉施設の職員向けに、防火安全研修会を初めて開いた。約240人が「警報設備がない」「一時避難できるバルコニーがある」など様々な想定で、避難誘導や通報の手順を訓練した。
こうした安全対策に詳しい、長崎県社会福祉協議会事務局長の益本昌明さんは「火災発生直後の対応の良しあしが生死の分かれ目になるので、避難訓練は重要だ。ホームの行事に参加してもらい、施設側が介護相談に応じるなど、地域との連携強化も大切。外部の力を借りることは、安全対策に加え、入居者にとってよりよい住環境を築くことにもつながります」と話している。
【防火対策と避難訓練のポイント】
▼漏電防止のため、夜間は使わない電気製品のコンセントをすべて抜く。
▼避難の妨げになるため、廊下に物を置いたり、玄関先に植木鉢を並べたりしない。
▼放火されないよう、燃えやすい段ボールなどのゴミを人目につく場所に放置しない。
▼ホーム内は禁煙。喫煙者がいる場合、職員がライターを預かり、屋外での喫煙に付き添う。
▼避難訓練は、通常の勤務体制で実施。天候や平日・休日の別にかかわらず行うことで、様々なケースに備えられる。
▼避難の際、居室内が無人だと確認したら入り口の名札を外す。他の職員に安否確認済みとわかる。
(「フクチャンち」での実践を基に作成)
認知症施設では予算不足の為、法令で定められるスプリンクラーの設置などが思うように行かず、
入居者の安全が脅かされかねない現状があります。
こういう場所には公的なお金を使うべきと思いますがどうでしょう。
施設だけの努力には限界があります。
いざと言う時に体の不自由な入居者が避難できる時間を確保する為にも、
法令を定めるだけでなく実施出来るように施策して欲しいものです。
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