【歪みの構造 社保庁問題】(中)無駄遣い底なし
産経新聞より
ゴルフクラブにカラオケセット・・・。年金保険料無駄遣いの舞台となった社会保険大学校は今、静けさに包まれている=千葉県白井市(撮影・原川貴郎)
次々と明るみに出る社会保険庁の不祥事。中でも、社会不安を招いている年金記録紛失は最大級の問題だが、年金行政のいい加減さは、それ以前から指摘されていた。千葉県白井市に約3万平方メートルの広大な敷地を誇る社会保険大学校がある。社保庁職員を対象にした「職務遂行に必要な専門知識・技能の習得」を目的とする研修機関だ。いまは静けさに包まれているこの施設を舞台に驚くべき事実が発覚したのは平成16年のことだった。
保険料でゴルフ用具
いわゆる「年金保険料無駄遣い」は、大規模年金リゾート「グリーンピア」建設などで問題化しただけでなく、この年、社会保険大学校にも波及した。社保庁はこの施設内のゴルフ練習場で使用するゴルフクラブ、ゴルフボールのほか、カラオケセットまでも年金保険料で賄っていたのだ。
一連の無駄遣いの源流は、10年に財政構造改革特別措置法が施行され、社会保障関連費用への年金保険料の流用が認められたことにある。社会保障関連費用として、「事務費」などが含まれていたが、社保庁はこれを拡大解釈。娯楽用具を事務費から捻出(ねんしゅつ)していた。これでは、極端に言えば100兆円でも200兆円でも使い放題、何を買っても法的に許されることになりかねない。ちょうど16年に成立した年金改革関連法が支給額抑制と保険料引き上げなど、国民に負担を強いる内容だっただけに、この無駄遣いには国民の怒りが爆発した。
そもそも研修施設にゴルフ練習場を設置するという発想が、世間の常識を超えている。大学校職員の一人は「公務員がゼロから新しい発想をする能力はない。どこかの似たような施設にゴルフ練習場があると誰かが聞きつけ、『じゃあ、うちでも…』ということになったと聞いている」と話す。つまり、その程度の思いつきで、国民が支払った保険料は浪費されたということだ。
無駄遣いは大学校に限った話ではない。全国300カ所以上ある社保庁の職員宿舎のうち、50カ所の宿舎建設費にも保険料があてられた。総建設費91億3584万円のうち、保険料からの支出は47億7572万円。職員宿舎は格安家賃で提供され、東京23区内の4LDKで家賃3万6340円という例もある。保険料購入の公用車も5年間で247台に上り、その自動車重量税も保険料で賄われた。さらに、社保庁長官の県人会参加費1万円や職員の退官記念品代3万円などにも保険料を流用。どうやら社保庁には公私の区別という概念すら存在しないらしい。
自民党の丹羽雄哉元厚相は「2、3年前まで自民党の厚生労働部会でも年金保険料を住宅融資に使えという声はあった。そういう中で働いていると、『何に使ってもいいんだ』ということになってしまったのではないか」と指摘する。
国民からの批判を受け、政府は職員宿舎建設費、公用車購入費、職員の健康診断費などは、保険料からではなく国庫支出に改めた。ただ、「高齢化社会で社会保障費の伸びが続く中、年金特別会計抜きで国家財政は回らない」(財務省幹部)と判断。17年度予算では市町村窓口の加入届や年金証書の印刷代や郵送費、年金管理システムの開発費や端末導入費、納付のお願いに職員を派遣する際の旅費といった「年金事業に直接関係する事業」に使途を限定。さらに、18年度予算からは財務相と厚労相の合意文書に基づいた項目にのみ保険料を使うことにした。
また、悪名高き大学校のゴルフ練習場は廃止し、ゴルフクラブやカラオケセットは売却された。テニスコートや体育館は部外者にも開放されている。
ただ、13万円で購入したゴルフクラブ12本は地元のスポーツ用品店に5000円で売却。700個のゴルフボールは300個しか売れず、残りの400個はすべて廃棄された。90万円で購入したカラオケセットは、わずか7万5000円。無駄遣いのツケは結局は国民に降りかかった。
今、保険料無駄遣いの舞台となった社会保険大学校には、ほとんど人影がない。宿泊棟は最大300人収容可能で、全国各地から毎年約3900人が泊まり込んだ施設だが、隣接する多目的グラウンドやテニスコート、体育館を含め、さながら夏休みの小学校のような静けさだ。
人がいないのは、年金記録紛失問題をめぐる相談窓口の夜間対応や休日出勤に追われ、「研修に人を出す余裕がない」(大学校職員)ためだ。今月11日からすべての研修は中止され、再開のめどは立っていない。約20人の大学校職員の半数も相談窓口の応援に駆り出されている。
だが、こんな大きな問題でも、世間の関心はいつかは薄れる。現在、看過できない動きが出ている。国会で審議中の社保庁改革関連法案に、年金記録の管理、広報、相談、情報提供などに保険料の恒久的な事務費充当を認める規定が盛り込まれたのだ。
今国会の審議を通じて、この規定は、保険料が年金相談コーナーの拡充工事費や繁忙期のアルバイト代などに使えることを意味することが明らかになった。
のど元過ぎれば熱さ忘れる−。今回の問題が人々の記憶から失われた後、社保庁解体後の年金事務を受け継ぐ日本年金機構が、この規定を悪用しないとはかぎらない。
法改正や組織解体だけではなく、社保庁的体質そのものを断ち切ることができなければ、かつて事務費がゴルフボールやカラオケセットに化けたように、新法によって拡充工事費代がサウナやマッサージルーム代に変わる可能性もあるのだ。(年金問題取材班)
明日に続きます。。。